印象
――九月の帝国劇場――
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)繙《ひもと》く
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)廃頽的|雰囲気《アトモスフィーア》を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九二一年十月〕
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久し振りで女優劇を観る。
番組に一通り目を通しただけでも、いつもながら目先の変化に苦心してある様子が窺われる。一番目「恋の信玄」から始って、チェーホフの喜劇「犬」に至る迄、背景として取入れられている外国の名を列挙したばかりでも、相当なヴァラエティーは予期されよう。併し、全体として、見物は、その大がかりな規模にふさわしい深い感銘を、観覧後まで心に与えられたであろうか。
自分としてはかなり物足りなかった。勿論、退屈な時、手当り次第に雑誌でも繙《ひもと》くように其場かぎりな、相手にも自分にも責任をもたない気分で目だけ楽しませようと云うのならば何も云うべきことはない。けれども、現在は兎に角、将来の長い時間の為に、女優劇は、今のような、一段、気を許した雰囲気にあることは慶ぶべきこと
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