小学教師が、小学教育の偽瞞に目ざめる動機は「万兵衛は悪いと思います」という子供のイデオロギー的な言葉よりさきに、校長、教頭などが金持、地主、官吏の子供らばかりをチヤホヤし、その親に平身低頭し、自身の地位の安全のためにこびる日常の現実に対して素朴な、しかし正当な軽蔑と憤りとを感じることから始る例が多い。
佐田は搾取形態としての分業について、又は専制的封建的小学教育法についてイデオロギー的批判をするとき大がかりにマルキシズムの社会観によって思想を展開させている。ところがそれを実践にうつす段どりになると彼はきわめて安直に、粗末に、非組織的に行動することしかなし得ない。
児童たちの窓ふき作業ぶりを観察して、たちどころに小学教育の基礎と方法とは労作に結びついた教育でなければならぬという社会主義教育の階級的課題にまで頭の中で推論に拍車をかけた佐田は性急に、孤立的にそれをどういう形で行うかというと「おおい、みんな!」彼はとっさにワイシャツとズボンを脱ぎすてて叫んだ。「先生もみんなを手伝うぞ! みんなの仲間入りするぞ!」そうして、素早く雑巾を握ると、まるで夜のあけたような心で割り込んで行った。生徒
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