坊、笑う黒坊、育った赤坊の黒坊――。
午後八時頃。湧こうとする濃闇の、其の一時前の仄明り。音楽の賑う旅舎の樹蔭の低い石垣。その角から三つ目の石の上に、まあ沢山。群れて笑いさざめく彼等、男の声、女の声。目の前を走る自動車が、四辺かまわずムッと跳上げる砂埃――其でも彼等は嬉々と笑う。
腕を組んで漫歩する紳士が、枝に止まった小鳥のように目白押しする彼等の、その真正面で、ペッと地面に不作法な唾を吐く――
其でも彼等は体を揺って、ハハと笑う、ハハと笑う……
皆が侮る黒坊、泣いても笑っても、白くは成れない黒坊……南の国で卿の仲間が火で燃き殺される、その煙、その臭い――。
皆が侮る黒坊、皆が厭がる黒坊、誰が卿を黒くした? 何が卿を笑わせる?
何がお前を笑わせる? 黒坊――。
[#地付き]〔一九二〇年三月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「解放」
1920(大正9)年3月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング