というだけのことでもないと思えるし、同時に、数の多さは、婦人有権者たちだけの質の低さを示すものともいい切れない。又、婦人が生活の切迫に目ざまされて民主へ進歩の結果とも、買いかぶりかねる。現実にはこの三種三様の心理が極めてごたごたとまざり合って、今日の日本らしく複雑にあらわれて来ているのだと思われる。
 二月以来のモラトリアムは、経済生活を建て直す実効はなかった。特に、生活資金の二百円削減は、日常生活に甚大に響き、物価高、米の配給遅延の悪条件、失業の増大等、どんな婦人の心にも、このままではやってゆけない切迫感を湧きたたせている。婦人立候補者の大部分は「政治と台所の直結」といい「女の問題は女で」といい、その現実めいた言葉は、藁にでもすがろうとする婦人の要求に訴えるところがあったに違いない。女なら女のことを解決する[#「解決する」に傍点]かもしれない、というぼんやりした婦人たちの期待は、時期尚早のうちに強行された選挙準備のうちに、決して、慎重に政党の真意を計るところまで高められようもなかった。連記制は、この未熟さに拍車をかけて、三名選挙するのなら、それぞれ全く反対の立場の政党の有名人一人ずつに、男へ投票するなら女も、と、婦人一名という工合に、気まかせに組合わされた。つまり、政府で売出す富くじみたいに、三様に書いてみれば、どれか一つには当るかもしれないという、不信頼と心だのみの入れ交った気分が動いたろうと思う。
 総選挙がすんで、ほぼ二週間経とうとしている。今日、わたしたちが日々目撃している光景は、全く独特なものである。ドイツと日本の食糧事情は最悪であると、警報がかかげられている。その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記翰長は「院外運動などで総辞職しない」「再解散させても思う通りにする」と、どんな背後の力をたのんでのことか、心あるすべての人々を憤らせる居直りぶりが示されている。『世界の顔』で、国際的信望を失いつつある鳩山一郎氏が、自由党という第一党の首領であり得ることも、おどろかれるし、現職のまま幣原首相が進歩党の総裁となって入党したことも、民主とはかかることにさえつけられる名称かと、日本の民主主義の異常さに、目を瞠るのである。
 四月二
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