でもないと放って置いたけれ共、一向によくならない。
今日はどうしても高井にたのまなければならないからと思って電話をかける。
声の太い頭の鈍そうな男が出て、私が早口だと見えて、
「おそれ入りますが、どうぞ、
もう少しゆっくりおっしゃって下さい。
と云う。
主人が旅行中で十四日後でなければと云う。
それでよいから、次手《ついで》に、マンドリンの第一の絃を二本持って来て下さいと云ってやる。
楽器屋や本屋の取次が、はきはきして居ないのはほんとうに気持が悪いと思う。
早口で云われるとききとれない様な頭では駄目じゃあないかと思ったりして居ると、母が寿江子の頭がひどいから来て見ろと云う。
ほんとにまあ可哀そうに、頭の地一杯に何だか、かさぶたの様なものがついて居る。
産れた時すぐオーレーフル油で拭いてやるべきを、あの看護婦がしなかったのだと云う。
口の中の消毒が完全でなくて、「がこうそう」が出来そうにまで、舌苔の様なものをつけさせた上にこんな事までして行ったかと思うと、あの髪のちりちりの四角ばった頭の女が憎々しく思い出される。
母が何か少し差図めいた事を云うと、すぐ変な顔をし万事
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