は喫驚《びっくり》して母親を引張った。
「あらあら、おっかちゃん、大きくなって来たよ、これ」
「ほら大きくなるぞ……大きくなるぞ」
 小さかった白い餅のようなものは、もりもりもりもりと拡って、箸でやっと持つ位大きく扁平な軽焼になった。
「さ、ちっと冷《さま》してから食うと美味《うま》いよ。芳ばしくて。――自分で焼いて見なさい」
 一太は片手で焙りながら、片手で軽焼を食った。とても甘く、口に入ると溶けそうだ。
「本当に美味《おい》しいや」
「本当とも」
 一太は、
「もういい? もう返してよござんすか」
と云いながら焙り出した。
「こんどのおっかちゃんに上げようね」
 一太の母は、陰気に気落ちのした風でそっちへ目をやりながら、
「いいよ、先生に上げるものですよ」
 そして、
「その方はお偉い先生で御本をお拵えなさるんですよ」
と云った。
「ふーん……」
 一太は、考えていたが、
「じゃああの本も拵えたんですか」
と藪から棒に尋ねた。
「どの本だね」
「あの本――少年倶楽部……僕よんだことあるよ、島村大尉ってとても勇ましいんだね」
「ハハハハそれは違うよ、それは別の人が拵えたんだよ多勢で…
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