にでもなられたら、死んだ親父にも申訳ないと思いますし。――けれどもなまじっか人並以上の暮しをしていた悲しさで今更他人の台所を這いずる気にもなれず……」
「……そういうんでは、あなたが今云った朝鮮行きもどんなものかな……一つ大決心がいるね」
一太に会話の大部分は不得要領であった。一太は、ただ漠然いつ朝鮮へ行くのだろうと思った。この頃一太の母はこうして訪ねた先々で朝鮮行きのことを話した。一太にも話した。母親は一太をつかまえて大人に相談するように、
「ねえ一ちゃん。いっそ朝鮮のおじさんとこへでも行くかねえ。こういいめがふかなくちゃあやりきれないもん……ねえ」
と談合した。一太はそのとき勇み立って、
「ああ行こうよ、行こうよおっかちゃん」
と云ったが……一太は、頭を傾げ脚をふりふり、
「どんなところだろうね朝鮮て! おっかちゃん」
と訊いた。男の人は少し笑顔になった。
「木浦だったね、さっきの話のところは。――木浦なんぞは入口だから、大して内地とは違うまい」
一太はうっかりした風で窓から外を見ていたが珍しがって急に大声を出した。
「ここんち竹藪があるんだねえ、おっかちゃん、御覧ほら、向うに
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