、興にのって、あっちへ行っては下駄で枯葉をかき集めて来、こっちへ来てはかきよせ、一所に集めて落葉塚を拵えた。一太の家の方と違い、この辺は静かで一太が鳴らす落葉の音が木の幹の間をどこまでも聞えて行った。一太は少し気味悪い。一太は竹の三股を担いで栗の木の下へ行った。なるほど栗がなっている。一太は一番低そうな枝を目がけ力一杯ガタガタ三股でかき廻した。弾んで、イガごと落ちて来た。ころころ一尺ばかりの傾斜を隣の庭へ転げ込みそうになる。一太は周章《あわ》てて下駄で踏みつけた。一つの方からは大抵色づいた栗が二つ出た。もう一つのイガの青い方からは、白っぽい、茶色とぼかしに成った奴が出て来た。一太は手にのせて散々眺めたままいそいで懐に入れた。一太は再び三股で枝を叩いた。ヤーイ、バンザーイ! ばらばら、丸々熟した栗が今度は裸で頭の上から落ちかかって来る。一太は我を忘れ、首がかったるくなる迄上を向いて実を落した。
 一太が再び部屋に戻ると、一太の母はやはり元の椅子に、ふてたような顔付をしてかけていた。一人であった。
「――おじさんは?」
「あちら」
「これ御覧、おっかさん、こんなにあったよ」
 そこへ男の人が戻って来た。
「どうだ、とれたか」
「ええ、随分ありましたよ、うんとなってるね高いとこに……届かなかった僕あ」
 一太は両手に懐の栗を出して見せた。
「何だ、こんな青いなあ駄目だよ」
「ふーん。乾しといても駄目だろうか」
「駄目さ、樹からもぐと栗も死ぬからな、乾したって食べるようにはならないよ」
 立ったまま、一太の手の栗を見ていたその人はやがて、
「こっちへおいで面白いものをやろう」
と云った。
「あなたも……」
「有難うございますけれども、もうお暇《いとま》いたしますから」
「まあゆっくり相談しているうちには何とかなるまいもんでもないさ」
 一太の母は、不平そうに慍《おこ》ったような表情を太い縦皺の切れ込んだ眉間に浮べたまま次の間に来た。小さい餉台の上に赭い素焼の焜炉《こんろ》があり、そこへ小女が火をとっていた。一太は好奇心と期待を顔に現して、示されたところに坐った。
「今じき何か出来るそうだが、それまでのつなぎに一つ珍らしいもんがあるよ」
 その人は、焜炉の網に白い平べったい餅の薄切れのようなものをのせ、箸で返しながら焙《あぶ》った。手許を熱心に眺め、口の中に唾を出していた一太
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