私共はほんとに、運が好いんだよ。今まで何処へ行ったって食べるものには困ったことはなし、其那にこわいと云う程の目にも会わないんだからねえ。どうかこれからも、そうですみます様にだ。ほんとに運が悪いとなると、あの片目の雌鴨みたいなのさえ居るんだからなあ。
「片目のって? どんなんだって? 第一そんなのと私共一緒に居た事があったかしらん。
「ほらお前もう忘れたの? ついこないだまで一緒に居たじゃないか、あのうんと大きな体のさ! よくお前と突つきあいばっかりして居た癖に。
「ああそうそう居ましたっけねえ思い出したわ、あの慾張りなんでしょう。私大きらい彼那の!
「まあきらいでもかまいやしないけど兎に角運の悪いんだってよ、ほら! 何ぞと云っちゃあ、一度捕えられて、人の家に飼われて居た時猫に目を片輪にされて、漸々逃げ出すと今度は又食べるもんがなくって、死にかけて居る所を又他の人につかまって、今度逃げて来たのは二度目だって云ってたじゃないか。
だから逃げる事だきゃあ上手だって自慢してたっけが今度って今度はもう駄目だろうねえ。
「そうねえ何んしろ繩だもの、きっと殺されるのねえ、あれは……
だけど私あの
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