電信局の建築場では、労働者と荷橇馬が出切った木戸を、つけ剣の銃を手にもった若い番兵がしめて居る。彼の頭の上につられて居る強力な電燈が凍った雪の上に、垂直に彼の影を、きたない、大きな皮外套の裾の下に落した。
○夜八時
ストロー※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ヤを出たら、煙が街にあるようで、段々それが濃くなった。霧。
四日
橇の馬の体に汗が凍って、毛が真白に凍って居る。
人間の男の髭も白い。
午後三時雪が、労働新聞社の高い窓の一つを焔のように燃え立たせた。
○降誕祭には開いて居た教会の正面の扉に、錠が下ろしてある。
外壁に沿った裏通りに古本屋が露店を出し、空屋に店を出して居るところにモーランの夜開く、武郎の或女、ゾラの小説がさらしてあった。
○壁の厚さの感じ。
五日 ひどいモローズ
プーシュキン・ブル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールの樹木が皆真白になった。そこを、黒く多勢の人々が歩いて居た。人々は小さく見えた。
白い風景の中にレーニン・インスティチューションが直線的に立って居る。その空に月が出た。
イムベルのところ
フランスの色調、トミスという犬、
ジェリンスキー、構成派のクリチク
アメリカに行きたい
アメリカの New インテリゲンチャの好奇心。動、強さ、新しき文学
彼等の生活力、テクニック。
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〔欄外に〕
ロシア人は 彼等の着物を着かえたばかりではない 心まで変りつつある。
[#ここで字下げ終わり]
二月二十三日
クラスナヤ・アルミアの十年祭、方々に赤い旗が出て居る。
モスクワ大学の立琴と鷲のギリシア式鉄柵の間に古本を挾んで売って居る。ゲーテ、三人姉妹、レムブラント、ノーヴィミール。など。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
※外字「※[#「Y+Y」]」は、2つの「Y」を横にずらして重ねた形。
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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