んで夕方暗くなる一時前の優婉さ、うき立つ秋草の色。
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     工場の女と犬

 十月雨の日
 女工
「マル マル マルや 来い来い お前を入れて置きたいのは山々だけれどもね、土屋さんに叱られるといけないから出てお呉れ、ね、マルや マル」
 別の声「何云ってるの」
「――マルと話して居るのよ、ねマルや、(誰かがきいて居ることをイシキした声で)お前を入れておきたいのは山々なれどもね、さマルや、大儀かえ? 大儀なら小屋へ行っておね」
 聞いて居る自分、うるさくなりむっとした心持になる。

     アンマの木村

 六十九歳、
 若いうち、いろんな渡世をし、経師や、料理番、養蚕の教師、アンマ、など。
 冬、赤いメンネルのしゃつをき、自分でぬいものをもする。
「あんたどの位あります」などときく。小柄、白毛。総入れバを時々ガタガタ云わせる。
 小さい鼻、目、女のようなところあり、さっぱりせず。

     後藤新平の自治に関する講演

 ひどく生物哲学を基礎とする自治本能という。
「私が云う自治というのは、決してむずかしいことではない、|誰に《三つの子供》でもじき覚え
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