が左の足にあたる。四週間かかる。二週間目頃ひどく膨れていたむと。いう。
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〔欄外に〕
 Aの、憎んだようなこわい顔、ありあり見えた。
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     工場の話

「柳は陰気くさいが、あれで陽のものだってね。昔何とかいう名高い絵かきが、幽霊の絵をかき明盲にしたりいろいろやって見たが一向凄くならない。そこで考えたにゃ、ものは何でも陰陽のつり合が大切だ。幽霊は陰のものだから陽のものを一つとり合わせて見ようてんで柳を描いたら、うまいこと行ったんだって。――男と女だって、生きてるときは男が陽で女が陰だが死ぬと変りますね、土左衛門ね、ほら、きっと男が下向きで女が上向きだろう。ありゃ何も男のキンタマが重くて下を向き、女のおしりが重くて上を向くんじゃあないさ、陽陰が代ってああなるんだとさ。
 おじぎなんか、何故陰の形をするんだろう、そいつはわからない」

     伊豆湯ヶ島

       一九二五年十二月二十七日より
 修善寺駅
 茶屋の女(丸髷)出たら目の名、荷物のうばい合い、
 犬、片目つぶれて創面になって居た、思わず自分、あっと云う。
 Y、「この犬はいけない!」体が白いからなおいけず。自分、片手で顔を覆い動けず。創にさわるかと思うと手も出ず、又哀れで。
 その犬の心持を思いやる、きっと人がこの頃自分をきらうことを悲しく、いぶかしく感じるであろうと。

 二十八日、ひどく暖い。そとに出て見る、表山、山、杉木立、明るい錆金色の枯草山、そこに小さい紅い葉をつけたはじの木、裏山でいつも日の当らないところは、杉木立の下に一杯苔(杉ごけやぜにごけ)がついて居、蘭科植物や羊歯が青々といつも少しぬれて繁茂して居る。
 山が多く、日光が当るあたらない、いろいろあるので、山にも変化がある。瑞巖寺で見た本阿彌の庭のように、一面芝山で何もなくところどころに、面白い巖の出たのもあり。
 ○南画的な勁い樹木(古い椎)多し、古※[#「木+解」、第3水準1−86−22]、榧、杉(松は尠し)◎南天、要、葉の幅の広い方の槇、サンゴ樹(赤い実がついて居て美し)それから年が経て樹の幹にある趣の出来てた やぶこうじの背高いの(千両)南天特に美し。
 ○川ふちの東屋、落ちて居た椎の実、
「椎の実 かやの実たべたので」
 かやの実とはどんなものだろう
 ○変な五人づれの万歳
 ○男の尺八、それをききに来たもう一人のやはり気弱な男。

     Yamada Kuniko の生活

 信州人。ムラサキ時代、
 中央新聞記者。
 いろいろな男
 生田と同居時代
 同じ社の政治部の少し上の男と結婚、
 その男代議士となる
 女に対する淡白さ、彼女は良人を父とし、多勢若い男にとりかこまれ、良人子供をつれて客間を出、遊ばせにゆく。そういうもの分りのよさ。しかし我とわが身をせめる寂しさ。(此頃よくある一種の細君)

     生田花世氏の言葉

「余り不幸だと一種の公明正大さが出来ますな、自分の利益にはならないでもね」

     野上さんの或面

「情の人には嫌われても、知の人には尊敬される人ですね。面白い存在だと思います」――伊藤綾子の言葉。

     伊藤綾子

 二十五歳――今年六歳
 独身、男性、恋愛の欠乏から生じる不安、生活のよりどころなさ。
 菊池寛
「いくつです」
「二十五です」
「へえー、いつの間にそんなに年をとりました――神代種亮が妻君をなくし、子供は三人あるが――どうです、その人と結婚する気になりませんか」
「余りだ」と思う
 芥川
「女は結婚して損はないんだがなあ」
 生田 自分
「めぐり合わせで来るときは来る。間違ったことをするより待った方がよい」
 綾子 それは分って居る。が、寂しい。弟が幼いのに、待[#「待」に「ママ」の注記]るのがまち遠しく、いきなり「―ちゃん」と云って泣いちまうことがある。子供の当惑。社会状態。==生活難、結婚難、等等。
 淋しさの鋭い刀できられる心。

     中年での疲労

 若くて田舎から出、金になる原稿、名をなす為の原稿と三日四日徹夜しても平気で仕事をした女、二十七八になり、やっとこれからが楽しみというときにつかれが出、頭や手がしびれ仕事どころでない。「それは辛いわ、とても悲しいわね」「だから、余り無理をする人を見ると、私おやめなさいって云うの」

     小田切益之助の娘

 二十三、聖心女学院出、
 頭のよい、派手ずき。
 お茶のテーブルに花をまき、クリームを銀器で出すという風。
 長尾半兵衛の息、ケイオーに七八年居、いつ卒業するかあてのない男と婚約。――自分が引まわせる気のよい男という条件で。長尾の地所が二十万円でうれたら結婚する。それまで娘早稲田に聴講生として通う。

  
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