たびあります。しかしその場合ほとんどすべてが商業主義の出版と、営利的なジャーナリズムにたいして、文学・芸術の独自性を守ろうとしたことが動機です。アメリカやアイルランドの小劇場は興業資本にたいして、金儲け専一でないほんとうの劇場、ほんとうの演劇をもちたいという希望をもつ人々によって創られたものでした。出版事業にひきずられっぱなしでない出版をして、たとえば、ヴァージニア・ウルフ夫妻が中心でこしらえていたような出版社をこしらえていたこともあります。ところが日本の今日は、その点、非常に注目すべき現象を持っています。たとえば鎌倉文庫は出版インフレ時代に経済的ゆとりをもつようになった作家たちが集って、財産税だの新円の問題に処してつくられた株式会社のように見えます。営利ジャーナリズムとして存在しつつ、作品発表の場面も確保してゆく。利潤の循環が行われる仕組です。出版会社、鎌倉文庫は『人間』『婦人文庫』その他『社会』までを出しています。『社会』第二号の口絵にのせられた貝谷八百子のヴァレー姿の写真を人々はなんと見るでしょう。こういう写真をのせる『社会』を出している会社を川端康成その他がつくっているというこ
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