描いている。「自己完成とその不断の努力のあとを自分の肉体に刻みつける」という言葉で考えている主人公をとおして、作者は、すべての情景、思索、行動をいつも深見進介の肉体、感覚を通じてのみ作品の世界のリアリティーとしてもちこんできています。こういう手法もこの作品の特長だと思います。深見進介の眼の虹彩のせばまるところに光りがあり、情景があり、その虹彩の拡がるところに闇がある、そんなふうに執拗に深見の体にくっついてはなれず、その感情を通じてだけ形象の世界を実在させている。その意味で作者の手法は、そういう主人公の生活を見つめようとするテーマと一致しているといえるでしょう。深見進介は、急進的な学生のグループに接触しつつ「そのグループしかゆくべきところ、生きるべきところはないと知りつつ、彼の全機能でそれを感じつつ、一つにかさなりあえず」苦しんでいる。それは自分の政治的認識が不足だからだとも思うが、なお「心がふれるあつく暗い抵抗のようなものを感じ」それは一人自分だけが感じているのではなく「日本の心の尖端である」と感じる。自己完成ということは、日本ブルジョア・デモクラシーの完成という点とかかわりあった課題
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