いう論文は、近代文学グループのあやまりを最もむき出しに示している荒正人氏の文筆活動をとり上げて、批評しようとしたことは、適切であったと思います。しかし、あの論文の書きかたは技術的に理論のアクロバットであったし、第三者に対しても論点を明瞭に示して、問題を正しく会得させてゆくために必要な客観的叙述にかけていたのは残念でした。文学評論が、論争の当事者にだけわかり、その感情を刺激しあうような楽屋おちのものであることは、民主主義文学運動の課題としてかえりみられなければなるまいと思います。
『黄蜂』という雑誌に野間宏という人の「暗い絵」という作品が連載中です。ブリューゲルの暗い、はげしい、気味わるい魅力にみちた諷刺画「十字架」の画面の描写からはじまって、ちょうど一九三七年ころの京大に、かろうじて存続していた学生運動のグループと、それに近づき接触しながら、一つになりきれずにさまざまの問題を感じている深見進介という青年を主人公としたものです。この作品は、さっきから触れてきている社会発展の歴史と個人との有機的な関係の問題の究明をテーマとしている点で注目をひかれました。この野間という作者が、とくに興味のあ
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