れなければならないが、やっぱり、文学の世界の住人以外の人に、これだけでは、不十分です。やっぱり、基本的諸問題の解明がなくては、派生する論議はわからないし、民主主義文学運動自体を推進させるために、社会主義的リアリズムは、民主主義文学建設の過程でどう理解されるべきかということが明瞭にされる必要があると思います。これが新日本文学会への宿題の一つではないでしょうか。
新日本文学会の東京支部は、「東京の一日」というルポルタージュ文学を動員しました。ここへは非常に広汎な作家が参加し、一冊の本としてまとめられました。その成果についても、いずれまじめな文学的検討がされるでしょう。また、新日本文学作品コンクールが行われ、その選が行われています。どんな作品と作家とが登場するでしょうか。いろいろの意味で期待されます。ほんとうに新しい、若々しい、柔軟なこころをもってかかれた作品が出たらうれしいと思います。
日本における民主主義文学運動の過程はけっして平坦でありえないし、まして、会そのものと各会員の経済事情が逼迫していて、どうしても文学運動としての密度が分散させられがちです。各人の文学上の活動が既成ジャーナリズムのうちに散発します。このさけがたい事情についてもよく研究して、いっそう民主主義文学の本質を明かにして、その線で統一されて、各方面・各分野に努力してゆくのが本当だろうと思います。
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附記 これは一九四六年十月二十九日、新日本文学会第二回大会で行った「文壇及び文学の一般情勢」という報告を整理したものです。この報告では新しい方向に研究を展開しはじめている国文学、短歌、俳句、戯曲、児童文学等についてふれることができませんでした。この報告の不十分な点ですから、それを諒解してよんでいただきたいと思います。[#地付き]〔一九四七年五・六月〕
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底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
1952(昭和27)年5月発行
初出:「日本評論」
1947(昭和22)年5・6月合併号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
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