を痛感した。経営の内部にどんなことがあろうとも、女工は参与し得ないように組織されている。春になると、勧誘員に山の奥から二十人三十人と束にして、若い貧農の娘たちがつれて来られる。彼女たちはそのまま寄宿舎へしめ込まれ、十時間労働でしぼられ、用がなくなると、また勧誘員に追いたてられつつ故郷へと一団になって戻ってゆく。来年はそのときまた改めて契約される。慢性的な季節労働の性質と全然産業奴隷的な悪条件のために、製糸女工の水準は最も低いところにのこされているのである。
「奴等はなかなかうまく考えていますからね、女工さんたちに、毎月現金で賃銀を全部わたすようなことは決してやらない。帳面を一人一人に渡しておいて、字面で書き込むだけ。小遣いは五十銭、一円とかり出しの形式にしておくんです。何ヵ月か働いた賃銀は、勧誘員が女工さんたちをつれて村へかえった時、帳面と合わせて親に渡す。ですから、実質的な賃銀不払いが雑作なく出来るんです。その時になって見るまでわからないし、いよいよ不払いとわかって腹を立ててもとうに工場からは出て、ちりぢりになっているからストライキも出来ない。来年働けば、貰えると思って、ずるずるにま
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