内部でさえ特別地帯とされているという事が、実際にはどんな事実を意味するものであるかを知った。また監房内で正座させる規則というものが、いかにブルジョア形式主義による偽善的効果をもつものであるかを知った。
(留置場へは署内のいろいろな警官が頻繁に来る。廊下においてある小|卓子《テーブル》の上に特別なケイ紙が備えつけてあり、そこに時間その他が刷ってある。それへ認印を押しにちょっと顔を出すのである。或るものは監房の方へ顔を向けズーと一通り廊下を歩いて視察した。だが、彼等は、たった今看守がどんなに岨に惨虐を加えたかということは表面何の変りもなく正座しているところから見てとることはしないのだ。形式的見まわりは夜中でも来た。看守は夜中も昼と同じように挙手の礼をし、『二十九名、内女一名です。異常ありません』と報告した。)
四月十一日頃であった。朝九時頃、便所へ行きがけに保護室の角を曲ろうとしたら、第一房の錠が開く音をききつけて、待ちかねていたらしく、今野大力がすっと金網ぎわで立ち上り、
「蔵原がやられた」と囁《ささや》いて坐った。
「いつ?」
「二三日前らしい」
このニュースから受けた印象は震撼
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