なく捕えられたのだそうだ。二十一歳の労働者出の革命的な青年である。岨と看守との押し問答がだんだん嵩じて来て、六十日間にすっかり頭髪の伸びてしまった岨は、腹立たしそうに、
「なんだ! それで君の任務がすむと思ってるのか!」
といった。
頬骨の出た看守の顔が紅くなった。
「おい!」
呻るようにいうと看守の相恰が変った。
「こっちへ出て来い」
「出ないだっていい!」
「でえろ[#「でえろ」に傍点]というのに」
ガチャンと監房の戸をあけた。たちまち、取組み合って、くんずほぐれつする凄じい物音が監房内部で起った。
「旦那! ね、旦那! 若いんだから勘弁してやって下さい。ね、旦那!」
ひどい音がしたと思うと、どっちかが監房から仰向きに転り出して留置場入口の戸にぶつかり、弾《はじ》きかえった。留置場は声こそ出さないが総立ちである。コツ、コツ。入口の戸を叩いて、休み番の看守が入って来た。ただならぬ物音をききつけてきたのだ。が、入って来た看守は一言も訳をきかず、格闘した看守の方も息を弾ませながら何事も説明しない。黙ったまま腰に吊っている剣をバンドごとはずすと改めて監房の内へ泥靴のまま突進していっ
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