ことだけなのだ。支配階級が自身の崩壊を守ろうとして、革命的大衆と、その文化組織に向って投げる狡猾で卑劣な投繩は、綿密に、截然と切りとかれなければならない。わたしは、ソヴェト同盟の文化活動の発展と実績とを自分の目で見ている。地球の六分の一を占める社会主義社会では、婦人大衆にとってもどれ程合理的な生活が営まれているかという事実を目撃し、その社会的事実を生活してきているのである――。
ごく小声で歌をうたいながら、わたしは監房内の穢れた板壁に刻みつけられているらくがきを見た。らくがきの数は少く、それも削ったり、字を潰したりしてあるのが多い。高いところに原政子様と書いてある。食物を出し入れする切穴のわきに「党」と深く刻まれ昭和三年八月十日と書いてある。「万歳」と薄くよめた。「日本共産党」と左側の板壁に大きく刻まれ、その字の上を後から傷だらけにしてある。
自分一箇についてわたしは何の心配をも感じず、深い客観的な自信というようなものに満たされてあったが、昨夜以来の同志たちの消息が気にかかった。夕方になるにつれ不安な期待が生じた。四月八日の夕刻、日本プロレタリア文化連盟婦人協議会の婦人たちが動坂の
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