。夕食は四時過であった。副食物は、粗悪なヒジキ。刻み昆布の煮つけ。大根と悪臭を放つ魚のあら骨とのごった煮。ジャガ薯煮つけ、刻み牛蒡《ごぼう》等で、昼、夜と二食同じ副食物がついた。そして、それは大抵二日ずつ繰返される。「がんもどき」を八十日に一度、粗悪な魚のきりみ一度。食いかけの入った干物一度、稀に豚のコマ切れのまざった牛蒡の煮ものは、御馳走である。食物の粗悪なことは留置場の一般的不平であった。弁当が配られると、
「チェッ! 何と思ってやがるんだ。出たら一つこの弁当屋にあばれ込んでやるから!」
などという声がした。しかし当時駒込署には左翼の同志が少数で、その一般的不平をとりまとめ、例えばメーデーの監房内闘争にまで高めるというようなことはされなかった。大体、駒込署の弁当が実質以下であることには理由があった。検束拘留された者の弁当代は留置期間警察もちである。ところが拘留があけても官僚的警察事務の関係で、その朝釈放されず、さらに一日または二日と引っぱられる者がしばしばある。署の会計係は帳面づらにしたがって賄いに支払ってゆくから、賄は警察の形式主義によって年に何百本かの弁当を食い倒されていなけれ
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