れらの雑誌が文化連盟から出ているというだけが、発禁の理由である。封建的絶対主義日本帝国主義は、日本プロレタリア文化連盟結成と前後して満蒙侵略中国再分割の戦争を開始している。この侵略戦争は満州国のお手盛建設で終る性質のものではなく、ソヴェト同盟への侵略と第二次帝国主義世界戦争への口火であることは十分明らかである。しかも、列強ブルジョアジーの計画する第二次世界戦争は、彼等にとっては、不利な諸条件をもっている。社会主義国家ソヴェト同盟の確立と五ヵ年計画の成功。そして、インド、アフリカ、ラテン・アメリカ等の植民地大衆は、今日第一次世界戦争の時のように従順に、帝国主義戦争の尨大な予備軍として利用され殺戮《さつりく》される事はがえんじないだろう。大衆の革命的組織は国際的に存在している。ヨーロッパ諸国の勤労大衆は、既にそれぞれ革命の経験をもっている。これらのいわゆる「内憂」が各資本主義間の利害の対立と微妙に絡んでいるのである。第二次帝国主義戦争は世界階級戦である。封建的資本主義国日本はこの戦争において、東洋における帝国主義の番犬をつとめつつある。日本プロレタリア文化連盟は文化活動を通じて常に正々堂々と日本の勤労大衆が現在経験しつつある政治的経験の深刻な階級的意味を啓蒙し、専制と恐慌、帝国主義戦争の重圧からの抜道はプロレタリアにとって何処にあるかということを明らかにして来ている。弾圧は決して無力な階級的組織に向って下されるものではないのである。
炬燵の上に新聞をひろげて更に眺め、わたしはこの暴圧がどの位の範囲まで拡大するものか、或は終熄するものか見当がつかなかった。○○君は単純にまた例の意地わるが始ったというぐらいに理解している。
「やりますねえ」
と云って、炬燵の向い側から同じ新聞をのぞいている。けれども、記事はわたしの心持に何かもっと重い余韻をのこした。身重《みおも》な窪川いね子が小さいふくさ包をもって上落合の作家同盟の事務所の横にポンプ井戸がある、そのわきを歩いていた姿を思い浮べた。
七時頃、若々しい中形模様の着物を着たサークル員の女工さんがやって来るまで、わたしはなお一二度、新聞をとりあげて見なおした。
二人・五人・七人。男女サークル員がだんだんやって来てその炬燵のある和洋折衷の室はやがて一杯につまった。この前の講演会の結果から始って、女工さんたちの方が男のひとたちより元気にしゃべった。頬を上気させ、しかし手は行儀よく炬燵布団の下に入れたまま。
「そんなこと――嘘ずら!」
「誰が出すもんか。――誰が云ったの?」
「坂田が来たんだって」
「ふーん」
女工さんたちが幹事をしている女子青年団ががっちりしているので、町会は、下諏訪町にあるもぐりの小新聞の主筆をつかって、組織がえをすれば年に百五十円とか補助金を出すと持ち込んで来ているのだそうだった。
「わたし達が役員に当選したら、先の女子青年団長が泣いてやめてしまったんです。」
「何故泣いたんです?」
「え? 工場へなんぞ出る人と一緒にされてはたまらないんだって」
女工さんはみんな眼を輝やかせ、凝《じ》っと胸を張って坐り、仲間の一人が何か云うとそれを注意ぶかく聴き、彼女らの云いたい言葉が云われた時にはつよく賛意を示し、愉快そうにこだわりなく笑う。自信のあるみんなの物ごしが自分に感銘を与えた。ソヴェト同盟にいた頃、よく工場で婦人労働者たちの間に交り、喋った。そこの若い婦人労働者たちが示したと同じ性質の注意力、知識慾、階級闘争の実践への吸収力を下諏訪の文学サークルの女工さん達から感じたのであった。彼女らの実質的な明るさは注目に価した。
「働く婦人」はこのサークルでも好評で、重宝ノートなども実際の役に立てられていることが分った。例えば自分の袖口にリボンをつけて切れるのをふせぐという狭い範囲での利用ばかりでなく、一人の女工さんがそんな細工をしていると、ふらりと来かかった他の一人が「何してるの」というようなことになり、「それはこの雑誌に出ているのよ」と「働く婦人」が見せられる。そんな工合に利用されるのであった。サークルからニュースを出すことがそこで決定され、「働く婦人」への通信員も婦人から二人きめられた。
今日は、下諏訪から満州へ出征させられて戦死した兵士の遺骨が到着したので、青年団の連中は停車場前の奉迎に強制動員されたのだそうだ。
「ここへ来る前塩尻が本籍地だって云うのでもう一度そっちで奉迎やって来たずら。骨をわけて持って来て、またこっちで奉迎だ。雪っぷりに傘もささせぬ。新規の羽織台なしずら」
ばかばかしそうな口ぶりで農民の△君が話した。
「どうだ? 女子の方も行ったかね?」
「行くもんで! 話して来ないもん」
それから、みんな砂糖豆をたべながら、サークル員がこしらえた「職場の歌」をう
前へ
次へ
全12ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング