学サークルを企業・農村のうちに組織する仕事をはじめた。音楽家同盟、演劇同盟、美術家同盟なども同じ活動を開始し、解放運動における政治闘争・経済闘争・文化闘争との間に必然的にある有機的な統一と、差別とがマルクス主義の立場からしっかり把握され、実践されはじめた。これは、日本の階級闘争の画期的進展を示すものであるし、同時にプロレタリア作家の階級的質を目に見えて向上させている。(作家同盟のサークル員は全国で四千五百名ある。東京、千四百三十八人中、婦人サークル員は百四十五人いる。)
 雪は午後になっても降りつづけている。I君が、自転車でもう一遍サークル員のところを動員にまわると云って出かけた。I君は二十歳ばかりの青年だが、岩波書店のストライキで首切られ、下諏訪へかえって来てから○○君と一緒にサークルの仕事を積極的にやっているのだ。ふと○○君が、
「あなた、平田良衛君を知っていますか?」
と私にきいた。
「知っています。……どうしたの?」
「つかまりましたね」
「ほんと? いつ?」
「知らないんですか、きのうの新聞に出ていましたよ。小川君、野村さんという人、窪川鶴次郎もやられた」
「その新聞ありますか、あったら見せて下さいな」
 わたしは三月二十八日の黎明に東京を立って塩尻へ来た。その日の新聞は見落しているのであった。女中が持って来た東京朝日新聞を見ると、三段ぬきの見出しで、プロレタリア科学研究所の山田勝次郎、平田良衛、野村二郎、寺島一夫、河野重弘等の同志たちが検挙されたこと、同時に、日本プロレタリア文化連盟書記長小川信一の家で書記窪川鶴次郎、出版所長壺井繁治がやられたことが報道されている。文化連盟の正体暴露という風に、日本共産党と結びつけ、正式の党員であることを承認したとか煽情的に書かれている。山田勝次郎の兄社会ファシストが、そういう活動をする弟をもつことに対して遺憾の意を表している。(!)日本プロレタリア文化連盟に対する反動支配階級の恐怖は、そもそも一九三一年の秋連盟結成の当初から顕著であった。それぞれ合法的な大衆文化団体、作家同盟、音楽家同盟、演劇同盟、美術家同盟等の十三団体を綜合的活動体として日本プロレタリア文化連盟を結成したものであるのに、官憲はその結成を承認しない。中央協議会を解散をもって威脅する。大衆的啓蒙雑誌「大衆の友」「働く婦人」などは毎号発禁つづきであった。そ
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