程を追求する小説を書くようなことを目ざさず、とにかく、生きて動いて直截に行動している人間を、生きて動いている人間との関係において描きたいといっていると見るべきであろう。
それらの心持を十分に推察しながらも、私は一つの疑問に逢着した。初期の暗鬱な涙の中にユーモアをもった短篇から「ふてぶてしく」「大手を振って生きよう」という今日の信念に到達した道には、石坂洋次郎として進展の足どりを認めることができるであろう。然しながら、すべての批評家が指摘している誇張癖とともに、作品のうちに試みられている強さ、逞しさ、単純で無垢な野蛮さへの翹望というようなものの本質は、どこまでも真に新しい社会性を含み、それを方向としているであろうか。私はこの作家によって意企されている美しい荒々しさというようなものが、八〇年代のロシア・インテリゲンチアの世界観に対して、新たな階級の感情として生れたゴーリキイの初期のロマンティシズムとは全く異った性質をもつものであると感じる。作者が従来生きてきた社会層の枠の内での常識が裏がえしの形で出された、人為的なものではないかとあやぶまれるのである。
この作者の才能を認める川端康成そ
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