なものをさえなお人間生活の希望の部へ繰り込まなければならない社会の現実について憤りを禁じ得ぬ種類の、最も消極的幸福のかげである。荷風の消極の面を白鳥は自身の永年の惰力的な楽なニヒリズムで覆うてしまっているのである。
また、菊池寛のかつぎ出したものに対して、白鳥が、保護[#「保護」に傍点]を拒絶した態度は興味があるけれども博覧な彼もついに見落していることがある。それは、この地球上には世界に比類ない大きい規模で諸芸術を花咲かせ、作家の経済的安定の問題から、住居・健康のことまで具体的な考慮をはらい得る国家が現実に存在していること、そして、そこでは山本有三が松本前警保局長と対談したとは全く異った内容性質で、作家が国家機構へ参加していることなどを、第一回全連邦ソヴェト作家大会の記事がジャーナリズムの上に散見するにかかわらず、正宗白鳥は作家たる自身の生活につながる問題として常識のうちにくみとり得ないでいるのである。
石坂洋次郎が去年から『三田文学』に連載している「若い人」は、はなはだしく一般の注目をひいて以来「馬骨団始末記」「豆吉登場」などつづけて作品が発表されるに至ったのは、以上のように純
前へ
次へ
全35ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング