士があらわれれば、その騎士の姿は必ずこの大鏡の上にうつる、という予言がある。
 シャロットの姫はもう何年も鏡の面をみつめながら、古城の塔で機を織りつづけたろう。今日もきのうも、そしてあしたも、シャロットの姫のものうい梭の音は塔に響いた。ところがある日シャロット姫がいつものように鏡を見ながら機を織っていたら、鏡の面をチラリと真白い馬に跨った騎士の影が掠めた。シャロットの姫がはっとしてその雄々しい騎士の影に眼を見張った途端に鏡はこなごなにくだけ、もう決してその騎士に会うことはなくなった。哀れな運命であったシャロットの姫の物語は、今日、私たちに何を告げているだろう。
 ヨーロッパの封建時代である中世に女の人の生活は、どんなに運命に対して受動的であり、その受動的な日々の営みは、あてのない幸福を待ちながら城に閉じ籠って、字を書くこともなく、本を読むこともなく、朝に夕に機を織ったり刺繍したりしているばかりであったという現実が現われていると思う。日本でも太古の社会で既に紡織の仕事をしていた。天照大神の物語は日本の古代社会には女酋長があったという事実を示しているとともに、その氏族の共同社会での女酋長の
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