った。みごとな織物をする上に美しいものだからオリムパスの神々の間にさえ大評判になった。神々の首領であったジュピターはその大変美しい織物上手の娘が好きになった。ジュピターの妻ジュノーの嫉妬がつのって、到頭哀れなアナキネはジュノーのために蜘蛛にさせられてしまった。そんなに織ることがすきなら、一生織りつづけているがよい、と。女神から与えられた嫉妬の復讐として、美しい織物ばかり織りつづける蜘蛛にさせられたという伝説の中には、女はいつも糸を紡ぎそれを織らなければならないということについての悲しみの感情の現れがあると思う。しかもそれが、神の罪のように逃げられない運命と語られているところに古代のギリシアの社会でその仕事が何かしら、幸福の表徴としてはうけとられていなかった証拠だと思う。ひろく知られているところのギリシアの社会は、人類の若々しい文化をはじめて花咲かせ、古典文化のつきない源泉となったが、このギリシアの繁栄と自由とは奴隷使用の上に咲きほこっていた。人口比率は一人の自由人に対して五人ぐらいの奴隷があって、その奴隷が生活に必要なすべての労役的仕事をしていた。紡ぐことも、織ることも、縫うことも、奴
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