いうことがよくいわれる。服装についてセンスというのは、ただ単純に配色、アクセントなどについてだけ語られるものだろうか。そうは思えない。やつれた体に粉飾してアクセントをつけたとして、それがよいセンスだろうか。美しさの基本に私たちは健康をもとめる。健康な体に、目的にかなったなりをしたいと思う。それには食べ物が確保されなければならない。安心して寝る家を確保しなければならない。人間らしい気品の保てる経済条件がなければならない。
本当に深く人生を考えて見れば、今の社会に着物一つを問題にしてもやはり決して不可能ではない未来の一つの絵図として本当に糸を紡いで織ったり染めたりしている紡績の労働組合が強くなって勤労者全員のための衣料について積極的に作用するようになったら、衣服事情は今日では信じられないほど大きい変化をみるだろう。今の日本の繊維産業は大体総同盟のしめつけで非常に組合としては無力化されてしまっている。もしそういう抑圧から自分を解放して繊維の組合が自主的な企画で生産をやるようになれば、組合間の健全な物質の交換で布地の流れは本当に違ってくる。
今日新聞に出た経済安定本部の経済白書をわたしたちは、どんなこころもちでよんだだろう。あの白書のなかにかかれている文句を、数字に直し、それを原型として一枚の生活図をひいたらば、それは果して人間生活という肉体に合うようなものだろうか。
日本のあらゆる女性が手にもって暮して来た物指やテープをハトロン紙の上に走らせるばかりでなく社会の上に、わたしたちの人生とその建設のために使うことを知るようにならなければならないと思う。[#地付き]〔一九四七年十月〕
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「働く婦人」
1947(昭和22)年10月号
※李白は唐の詩人であることから、「宋」にママを付した。
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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