意味深き今日の日本文学の相貌を
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地付き]〔一九三七年十月〕
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明治、大正年代にも、日本の文学は様々な意味で複雑、多岐な発展をとげて来たのであるが、この三四年間における日本文学が物語る歴史性、社会性の錯綜の姿は、或る意味で実に日本文学未曾有の有様ではないかと思われる。
明治、大正と徐々に成熟して来た日本の文学的諸要素が、世相の急激な推移につれて振盪され、矛盾を露出し、その間おのずから新たな文芸思潮の摸索もあって、今日はまことに劇しい時代である。日本に於てはロマンチシズムが今日どういう役割を果しているか、ということにさえ独特な相貌が現れているのである。
私の任務は、この興味ふかく又重大な今日の文学を語ることである。五十枚ほどの枚数の中に、果してよく描きつくせるであろうか。私の文学的教養と力量とが、この紛糾と錯綜を、明確に洞察し、整理し得るであろうか。少なからぬ困難が予想されるが、私は読者の忍耐と誠意と自身の熱意とに信頼して、この仕事をやって見る。この人生に明
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