えます。それでも、まあ晨子のことは幸い日下部さんのお肝煎《きもいり》でどうやら安堵出来そうでございます。本当におかげに存じておりますよ」
「それどころでございますか」
みや子は力強く対手の感謝を遮った。そして、自分の言葉がまるで土地売買にでも関するようだということには全然心付かず話を進めた。
「及ばずながら日下部も出来ます限りお気風に合いますところと随分心にかけてはおりましたようでございますが……当節のお方はなかなか御註文がどちらもおやかましいものでございますからね。――それでも、晨子さまならばきっとお仕合わせでいらっしゃいましょう」
子爵夫人は、無邪気に然し淋しそうに微笑した。
「それがおかしゅうございます。晨子はもう西洋へ参ると申すのばかりが嬉しいものと見えましてね。……まるで子供のようでございますよ。彼方に参って役に立たないものは何も入用《い》らないなどと呑気を申しております」
彼女は、細そりした肩に片手を動して羽織のずったのをなおした。
「……親の心子知らずとはよく申したものでございます」
これに応えて、みや子が更に同感を示す溜意を吐《つ》こうとした時であった。
彼女
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