杏の若葉
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)杏《あんず》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ねじ[#「ねじ」に傍点]をかけようと
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「おや、時計がとまっているでないか」
母親の声に、ぬいは頭をあげ、古い柱時計を見上げた。
「ほんによ」
「いつッから動かねえかったんだか――仕様ないな、ぬい、若えくせにさ、お前」
「だって母さん、耳についちまっているから判んなかったのさ。ほら――聴いてお見、カチカチ云ってるようだろ?」
杏《あんず》の若葉越しに、薄暗い土間にまで日のさし込む静かな午後であった。
「早く巻きな」
ぬいは煤けた大踏台を持ち出して、ギギギギと古風な柱時計を巻いた。踏台を降りようとすると、いつの間にかぼんやりした金色の振子が、西洋花を描いた硝子蓋の奥で止ってしまっている。ぬいは、また上ってねじ[#「ねじ」に傍点]をかけようとしたが発条《ぜんまい》は一杯だと見え、かたくて廻らなかった。振子を指で突つくと暫の間、コチコチコチコチ機械が動くが、それは一分も保たず、直ぐ止ってしまう。
ぬい[#「ぬい」に傍点
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