階のようなところと成ったり、夢特有の唐突さで変るが、どうかして自分はひどくその気の狂った人に深い愛を覚えて居る。先方もそうであるらしい。ところが、二人で二階へ昇る廊下口のような処に居ると、其処へ、一人男の人が出て来た。私の心覚えのある姓名の人であった。
洋服を着、何心なく来かかるその男を見ると、赤い着物の気の違った女の子は、いきなり腕をからみ合って居た私を突のけて、男の方へかけて行った。そして、手を執り、首をかしげて、頻りに何か頼んで居る。何処へ行くのか知らないが
「彼方へ行きましょう、ね、行きましょうよ」
と云い乍ら、驚き、不機嫌な男の手を、ぐんぐんと引張って居るのである。
相手は、暫く呆然とされるままになって居たが、やがてはっきり
「いやです」
と云った。それでも、気の違って居る人は承知しない。猶も執念くつきまとう。終に、男は実に断然たる口調で、
「厭だと云ったらいやです」
と云いさま、手を振もぎって、殆ど馳るように、階子段とは逆の方に歩き出した。
赤い着物を着た娘は、血相をかえて後を追い出した。追われると心付いて、男は洋袴にはまった脚を目まぐるしく動かして逃げる。後から娘は
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