がりもせず笑いもせなんだものがあると気がるなあの木鼠奴が通りすがりの木の枝からわしに声をかけおった。何じゃろ、今日のよな日のあてものにはもってこいと云うものじゃ……
第一の精霊 嬉しがりもせず笑いもせなんだ? 一寸思えばうす暗い中にうごめいてござるプルートーかさもなくば――ものがもの故あとが一寸はつづかぬワ、マいずれその近くに違いあるまい。
第二の精霊 コレ、若い人、何をそのよにだまってござる。年はとっても私等《ワシラ》はこの通りじゃ。とりのぼせぬまでにうかれるのも春は良いものじゃワお身の唇はその様にうす赤くて――はたから見ても面白い話が湧いて来そうに見える。口あくと歯にしみる風は願うても吹いては居ぬ、サ、今のあてものでも云って見なされ下らない様でも面白いものじゃ。
第三の精霊 私しゃ考えて居るのじゃ。
第一の精霊 とは御相拶な、考える事のなさそうなお身が考えて居るとは、――今のあてものかそれともほかの事かな。
第三の精霊 自分の事を考えて居るのじゃ。あてものよりもむずかしいものと見えて、すけをたのみたいほど迷って居るワ。
第二の精霊 自分を? 若い人には有り勝な事じゃワ、自分の心を機
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