で歩いて精女のわきによる。やさしげな又おだやかなものしずかな調子で、
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ペーン お前は泣いて居るネ、そして又大層美くしい。
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精女はおどろいてかおから手をはなし身をしりぞける。
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ペーン 何にもそんなにおどろくことはない。私はお前をどうしようと云うのではないから、どうして泣いて居る?
精女(沈黙。壺のふちを小指でなでながら耳をまっかにして居る)
ペーン 何故だまって居る? そんなに沈んだ泣いた眼をして居ると御前の美くしさは早く老いてしまうから――誰かが御身をつらくしたなら私は自分はどうされても仇をうってあげるだけの勇気を持って居るのだよ。
精女 誰にもどうもされたのではございませんけれ共――今ここに参りましたら老人と若人と三人の精霊が居りましてその若い人は私の前に体をなげ出しましたんでございます。そしたら年とった人達が髪の毛の上に手を置いて御あげ額に一度だけキッスして御上げって申しましたから私はその通りに髪の上に手をのせてあげたんでございます。
ペーン お前が? お前が? 私が三度あんなに心をこめた文をやったのに何とも云わない人が? そうしたらどうおしだ?
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ペーンはねたましげなイライラしたしまったかおをして手をふってせきたてる。
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精女 そうはいたしましたけど――私は何も申しませんでした。そしたら若い人は私に死ねと云え、死ねと云えと申しましたから私は云ってしまいました。
 若い人は川の方にとんで行ってしまって二人の老人もそのあとを追って行ってしまいました。私は何の事だかわかりませんで――ただ、一人ぼっちになったんで悲しゅうございました。
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いかにも小供らしい口調で伏目になりながら云う。
ペーンはシリンクスの話のあんまり子供らしいのと泣きぬれてました美くしさにみせられて頬をうす赤くしながらそのムッチリした肩を見ながら、
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ペーン ほんとうにマア、お前は美くしい体と心をもって居る事、私に御前の手の先だけさわらして御呉れ、その象牙ぼりの様な手の中に入れる事を――
精女 御さわりにならないで下さいませ。
ペーン 何故? 私はきたないものなんかは一寸もさわりゃしない――お前の手をさわりたいために私の花園で一番美くしい花の精をぬって来たほどだもの。
精女 御やめ下さいませ、何となく悪い事の起る前兆の様な気が致します。
ペーン 悪い事? 私は若い、そいで相応に見っともなくないだけに美くしい、それが若い美くしいやさしい精女に恋をする、何故悪い事だろう?
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精女沈黙。重って来た困る事にすき通る様なかおをして壺のかすかに光るのを見る。ペーンはそのかおを眉のあたりからズーッと見廻して神秘的の美くしさに思わず身ぶるいをしてひくいながら心のこもった声で云う。
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ペーン マア何と云う御前は美くしい事だ。そのこまっかい肌、そのうす赤くすき通る耳たぼをもって居る御前は――世界中にある美くしいものにつける形容詞を集めても御前の美くしさを云う事は出来まいネー。
精女 ――
ペーン お前はだまって居る。そのしまった口元、見つめた目つき――美くしい事だ、ほんとうに。ビーナス殿の頬の豊かさも眼の涼しさも御前にはキット及ばないに違いない。
精女 そんなにおっしゃらないで下さいませ、そんなにおっしゃられるほどのものじゃあございませんですから――
ペーン まっしろな銀で作った白孔雀の様な――夜光球や蛋白石でかざった置物の様な――私はそう思って居るのだよ。
 お前の御主のダイアナも月の冠をかむって御出でるから美くしいのだ、まばゆい車にのっていらっしゃるから立派なのだ。
 お前の方がよっぽど美くしいと私は思って居るのだ。
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精女、沈黙。
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ペーン ネー、シリンクス? 私は一寸ためらわずにハッキリと「お前を愛して居る」と云えるのだよ。私の前にどんな尊いものがあってもどんなに立派な人が居ても――私はお前の心から侍えて居るダイアナに誓っても――アアそれはいけなかった、月は一晩毎に変るからいつでも同じ太陽に誓ってお前を愛して居るのだよ、どうぞ何とか云って御呉れ。
 ほんとうにお前は私の命なんだから……
精女 おっしゃらないで下さいませ――どうぞ。
ペーン どうぞ云
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