口がきかれぬほど――
第一の精霊 精女殿、哀れに思われなんだか?
若い人の心は悶えるのも人一倍くるしみのますものじゃ。火の様になった若人の頭に額に一寸手を置いて御やりなされ、さもなくば髪の毛の上にかるい娘らしい接吻をなげて御やりなされ。
第二の精霊 して御やりなされ、悪い大神の御とがめをうくるほどの事ではない。
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精女、ためらいながら左の手につぼをもちかえてまっしろな右の手を栗毛の若い精霊の髪の上に置く。
若い精霊は涙をこぼして居る。
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第一の精霊 キッスをして御やりなされ額の上に――
精女(はっきりと)私はお主さまに朝と夕に御手にするほかいやでございます。
第二の精霊 お主さまに――。ほんに体を捧げて御ざるワ。
第三の精霊 有がとう、美くしいシリンクス、何とか云うて下されたんだ一こと、死ねとでも――
精女(沈黙。右の手を下にたれてうつむいて居る)
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二人の精霊は向うを向いた木によっかかって何か小声で話し合って居る。
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第三の精霊 何とか云うて下され精女、死ねとでも云うて下され、たんだ一ことで良いワ。
そのバラの花をつんで置いた様な唇からもれる言葉をきけば私は死んでも、――ナ? 死ねとでも云うて下され――
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第一[#「一」に「(ママ)」の注記]の精霊の目は狂った様に輝いて、顔中の筋肉がズーッとしまって居る。
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精女(足元を見つめたまんま震える声で)云っても良いんでございましょうか、――お死に遊ばせ。
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第一[#「一」に「(ママ)」の注記]の精霊は飛び上って精女の目を見つめ神経的に高笑をする。二人の精霊もその声にこっちを向いて二人の廻りをとり巻く。
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第一の精霊 シリンクスお主はこの若人に何をお云いなされた? あの笑い声は――あんまりとりとめもない声だったが――
精女(かおを赤くしながら無邪気に)アノ、私はこの方が死ねと云えとおっしゃいましたので申したんでございますが――この方はそれをきいて御笑いなさったまででございます。
第二の精霊 死ね? 思い切った事をお主は御云いなされた――コレ若い人、お主はそれをほんの心で聞いては大した事が出来ぬともかぎらぬ、じょうだんだと聞き流され、三つ子の云うた事だと思って居なされナ?
第三の精霊 私のほんの心できいてもなにも大した事等は起らぬ、私がこの精女殿に――まっしろけな幼児の様な心をもったこの御人にたのんで云うてもらった事じゃ。
第二の精霊 その様な事をたのむとはサテサテ――ほんとうに御主にはこの精女殿が美くしすぎたのじゃ。
第三の精霊 私はこの上もない安心を得たのじゃ。
嬉しい事だ、のぞみの満ち満ちた事だ。
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二人の精霊と精女とは若人のうす笑をしながら云って居る事をおどろきの目を見はってきいて居る。第三の精霊は頭をかるくふって遠くに流れて居る小川を見つめるといきなり張りのある響く声で、
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第三の精霊 美くしい精女殿、お二人の御年寄――さらばじゃ、この上ないよろこびのみちたところへ行く――青い水草は私の体をフンワリと抱えて冬の来ぬ国につれて行くワ、一寸の間頭の上に置いてたもった精女殿の指のほそさとうでの白さを夢見ながら、
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三人のかおをジッと見まわす。二人の精霊はサッと第三の精霊のまわりによる。若人は思い出した様に又笑って着物をひるがえして一足前に進む。二人は一足あとにタジタジとしりぞくと若人は青草の上を白い足で目まぐるしいほどに川の方に走って行く。二人の老人はかおを見合わせてホッと溜息をつきながらだまって涙ぐみながらトボトボとそのあとを追うて行く。
精女は力のぬけた様に草の上に座ってつぼをわきに置きながら。
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シリンクス お主さまからしかられよう――私はただあの人が云って呉れと云った事ばかりを云ったのにあの人はあんなに川にとんで行ってしまった、二人の人も行って――私はマアこのひろい中にたった一人になってしまった。
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細々と云って涙をふく。川のあべこべの方から林の司のペーンがみどり色のビロードの着物に銀の飾りのついた刀をさして来る。シリンクスの涙をこぼして居る様子を見てサッとかおを赤くする。それから刀の音をおさえてつまさき
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