わして御呉れ、そいでどうぞ御前の手にさわらせて御呉れ、どうぞ私の心を考えて御呉れ、アアお前はあんまりきれいな心をもって居る!
精女 ――
ペーン シリンクス! 美くしい精女! 私の気が狂いそうになって来た。私の目の前に――心の前にお前の顔が渦巻いて――あんなに調子をとった足なみで迫って来るじゃあないか? 私は何を云うんだろう。
私はどうしたら好いんだろう、アア私の霊《タマシイ》!
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ペーンはシリンクスのわきにつっぷす。シリンクスも座って居る。
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精女 アア私はどうしよう、さっきの若い人はキット川に入ってしまったんだろう、あの人は死んでしまったんだろう。そして又この方まで……アア恐ろしい。
お主さまダイアナ様! どういたしましょう?
私の体と心と一緒にふるえて居ります。
あの人も――この方も――
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立ち上りながらシリンクスはおそれて叫ぶ。
ペーンはその銀の沓をはいた足の上に体をなげかける、シリンクスはとびのきざま叫ぶ。
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精女 おやめあそばせ! こわうございます! 息がつまりそうでございますワ。アラ、アポローさまがあんなにケラケラ笑っていらっしゃいます、冥府の御使者がソラ! そこの草のかげから目ばかり出して居りますワ!
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たまらくなった様に又ペーンとならんで草の上につっぷす。
ペーンはソーッとよっておしげなく見えるくびにキッスしようとする。
シリンクスはとび上って云う。
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精女 おさわりになりまして? おさわりになったんでございますか? アア私の終りの日がとうとう参りましたワ、お主さまのところへも参れません、アアほんとうに終りの日が参ったんでございますワ。
私は恥うございます。
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身をひるがえしてかけ出す。ペーンもすぐそのあとを追う。
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精女 お許し下さいませ、お主さま! ダイアナ様!
恥かしいんでございますワ。終りの日が来たんでございますワ。
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シリンクスは小川の方に向っ
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