よこの村も集団農場になりそうだが、賛成かネ?」
 ペーチャの父親はボンヤリ床を眺めて黙っていた。すると、レスコフが続けて云うには、
「集団農場になると、ワシの政府から借りてる地面も皆なの土地とつきまぜられ、従って、お前たちに働いてもらって、これまでみたいに野菜や麦や、町から貰って来た布施をやることも出来ないようになる。お互に損だ。ナア、だから、村サヴェートで大会があるときは手を上げなさんナヨ。反対するんだ! よしか[#「よしか」に傍点]?」
 そして、酒をのませ、ペーチャが学校からうちへかえって見たら、真昼間、酒くさいイビキをかいて、ペーチャのおやじ[#「おやじ」に傍点]は眠ってる。
 おっかさんが、手招きをしてそっとペーチャを裏の胡桃《くるみ》の木の下へつれ出した。レスコフの云ったことを話し、
「だが、私はレスコフはだます[#「だます」に傍点]と思うよ。考えて見るに、レスコフは、俺らを働かせ、くれる物より十層倍もの物を儲けておるんだ」
と溜息をついた。ペーチャはピオニェールだし、学校で、くわしく集団農場のことを聞いている。
「おっかさん、集団農場へ入る方がズッといいんだ。機械でウンと耕せば、ウンと麦がとれる。集団農場が儲ければ、平均に働いてる者にも分け前が来るし、托児所やクラブも出来るんだヨ! 活動写真をタダで見れるようになるんだよ!」
 大会のあった後、ペーチャの家は大騒動がオッ始まった。
「太い女郎め! 亭主に反対して集団農場さへえる奴があるか! 畜生!」
 おやじは火の玉になってペーチャのおっかさんをなぐりつけようとした。おっかさんは泣きながら、
「だってお前さん、お前さんの考えが間違ってるんだもの……レスコフにだま[#「だま」に傍点]されるのはいやだよ、サヴェートはこれまでだって農民の暮しが楽になるようにと考えてくれたんだもの……」
 ペーチャは、おっかさんを擲《なぐ》ろうとするおやじ[#「おやじ」に傍点]の手へぶら下って叫んだ。
「とっちゃん! 考えれヨウ! 集団農場の方がみんなの為にいいんだから、ヨウ!」
「小僧奴! 出てうせろ!」
 だが出てうせたのはペーチャではなかった。おやじだ。おやじはレスコフの家へ行って、もう家へかえらなかった。
 おっかさんとペーチャとは、仕方がないから二人ぎりで実に忙しく集団農場のために働いた。ペーチャは集団農場のピオニェ
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング