われわれん村じゃ医者の数あごく少ねんだ。ブローホフ村からやっと来て貰ってる、お前その医者殴って、あとどうしるんだ? もう来ちゃくれめえ。ビリンスキー集団農場と托児所からお前、医者奪った。元パルチザンのすっことか?
 ――イグナート・イグナートウィッチ! 嗅《けえ》でくれ! 嗅でくれ! 医者の口を嗅でくれ!
 ピムキンはギラギラした眼と手でイグナトをせき立てた。
 ――どして。
 ――嗅でくれ!
 麻ルバーシカを緑色の絹紐でしめた、丸まっちい体つきの医者は、イグナートに向って自分から、
 ――どうもはや、村の連中にゃかなわん。
 そういって手を振りながら、また地面につばをはいた。そのはずみに医者はひょろついた。イグナートは、じっとその様子を見つめた。
 ――さて……
 髯をしごき、今は密集している集団農場一同に向っていった。
 ――同志《タワーリシチ》、集団農場員《コルホーズニキ》! どうすべえ? 医者は酔って托児所さやって来た。
 ――聞いてくろ! 俺《おら》、どげえな思いしてこの托児所こせえた? 一年かかって、てんでが家から、枕あ、敷布だしあって、やっとこせえたんだ。
 ピムキンは、
前へ 次へ
全39ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング