トの車寄せの前で、青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータが、ルバーシカをしめた帯革へ片手さしこんで、片手でやけに人蔘《にんじん》色の頭をかいている。
村人は、その様子を往還から眺め、或はもっと近く村ソヴェトの横に生えてる大きい楡の木の下のベンチから眺め、一種の感じを受ける。あるものは、地面につばをはいた。あるものは静かに水色のはげちょろけたルバーシカのポケットから粉煙草を出し、膝へ肱をつき熊手みたいな大きい指先でそれを巻きながら、ニキータの方は見ず、
――へえ……さあてね。
と独り言をいう。
集団農場にするということは、実に大きいできごとで、ビリンスキー村にはいろんな委員ができた。青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータは、集団農場加入資格詮衡委員の一人だった。一言にいえば、財産調べ委員である。富農。中農。貧農。中・貧農だけコルホーズにはいれるのである。
三十露里ばっかり離れた上ブローホフ村は濃い樅《もみ》の林にかこまれた村である。そこのもと町で染物工場をもっていたニキフォーロフの家が、集団農場組織についての調べから家宅捜索をくって、銀のサモワール三つ、絹地総体で三百
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