と何の関係がある!
――でも、おらとこに何損するようなもんあっぺ。
アグーシャは、心臓をわるくして、いつも蒼い頬っぺたを、うっすり赧らめながら熱心にいった。
――集団農場中央から来た男もいってるでねえか、一頭の牛と※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、読みは「にわとり」、245−6]みてえなちっちゃこいもんなんぞは集団農場へ出さねえでいいって。うちに牛が三匹もいるじゃあるめえし……。
――だ、だ、ま、って、ろ! わかったか。
グレゴリーは女房をなぐらなかったが、アグーシャは、亭主を疑い出した。
或るひるすぎ青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータを先にたてて、財産調べの委員三人が、裏庭の、枯れた向日葵《ひまわり》と素焼きの壺をひっかけた柵のむこうへ現われた時、アグーシャは、不安ないやな気分になって、思わず地面につばをはいて手の甲で口のはたを拭いた。
委員たちと家の内外を歩き、話し、立ったなり何か書付を柱におしつけて、なめた鉛筆でそれにやっこらと自分の名を書いてる年上の亭主のかっこうを、アグーシャは疑わしげに遠くから眺めていた。
先妻の息子のペーチャが夕暮、隣村の学校から帰って来た。ランプがついている下で、大きい瀬戸物のスープ入れの壺のまわりへ親子がかたまり、かわりばんこに木匙をつっこんでキャベジスープをたべた。アグーシャは、ペーチャに、
――今日、見て来たぞ。
といった。
ペーチャは十三だ。パンを頬ばった口へ熱いシチを流しこみながら落ついて、
――それで?
といった。
アグーシャは、心のなかにある気持を説明できず、ただ肩をもちあげ、
――それっきりさ。
と答えた。
グレゴリーは、シチをほんの少しずつ木匙の中にすくい、左手にもったパン切れで受け、時々にんにくを噛みながらゆっくり、ゆっくり、気難かしい顔してたべている。自分の耕地からとった一枚ずつのキャベジの葉っぱを味わって食っている風だ。アグーシャは、またペーチャにいった。
――何《どう》してピムキンは、何にでも鼻柱つっこむだべえ。
――何した?
――委員にくっついて来くさった。ニキータが納屋さ入ったら、自分が監督か議長みたよに柵のそとから「そうだ! そうだ! そう、やらなくっちゃなんねえ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」って頭ふってけつかった。
ペーチャは、めんどうくさそうに、
――ピムキンなんかかまうな。
といった。
――気がふれてるんだ。
――……誰かあ、いってたぞ、ピムキンがパルチザンだったってのはつくりごとだ。ただ脱走して、森んなかへかくれて、兎うったり、人間うったりして生きてただけなんだって。
ペーチャは、しかしもうアグーシャに答えず、テーブルのあいたところへ一枚の石版刷の絵をひろげた。アグーシャは、両肱つき腹を押しつけて、パイプをふかしている詰襟服の、髪の濃いスターリンの顔を眺めた。
長靴をはいたまんまグレゴリーはペチカの下の床几に横んなっている。横んなったまま流し眼で絵を見た。
――そんなの、なんぼだ?
――三カペイキだ。
ペーチャが、まいた画をもって、出かけようとした。
――どこさいく?
――「文盲打破《リクベス》」だ。
村ソヴェトの建物とは反対の、小さい池のよこに、木造の辻堂みたいな教会があった。一九二六年の旧復活祭に、屋根のてっぺんの十字架へ繩がかけられ、村のピオニェールとコムソモールとが、笑いながら力を合わせて、
一《ラズ》! 二《ドゥワ》!
一《ラズ》! 二《ドゥワ》!
と、その綱を地面の上からひっぱった。まわりで、村じゅうの者が、犬まで後足を池のピシャピシャに踏み入れて上を見ていた。十字架は春の陽の下でひっくりかえって、ズルズル屋根をこけた。
そのとき隣村から来た青年共産主義同盟員女子《コムソモールカ》のイリンカが、
――そこ! そのまんまで!
ファインダーをのぞきながら盛んにその辺を歩きまわり、ピシとシャッターを動かして、
――|よし《ガトーワ》!
さっと村の群集に向って片手を振った。
「反宗教者《ベスボージュニキ》」にビリンスキー村農村通信員として、その事件の報告が二ヵ月後に掲載された。写真は出なかった。
コムソモール・ヤチェイカへやって来たイリンカは、いつもより一層赤い顔して、ほんのり若々しいわきがのにおいをさせながら、
――だけんど、私、ちゃんと書いてある通りにやったんだよう。
十五カペイキの「写真愛好者のために」というパンフレットと乾板とを、みんなにのぞかせた。
ピムキンは、ニキータの肩越しにすすでいぶされたように真黒なモヤモヤだけ浮いてる乾板を眺めた。そして、気持わるく黄色い年齢も何も分らず皺だらけな自分の顔のさきで、げんこをふりながら呻った。
――ほ
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