いう室を、見物するのに二時間かかった。
天気がいい日は素敵だ。托児所の外庭の菩提樹のかげに、いろんな形の籠や小寝台がならぶ。臍《へそ》まで出して嬉しそうにその上で足をバタバタやってるちびどもの間を、白い上被《うわっぱり》きて白い布《プラトーク》かぶったニーナとマルーシャが、ただ見るよりずっと悧巧そうな顔つきで、笑ったり、しゃべったりしながら動いている。
――へ、托児所じゃ、時間きって昼寝さすんだとよう。
乾草をサスでかえしながら、ビリンスキー集団農場で女たちが話した。
――ふ、ふ、ふ。こっぱずかしいみてえにあそこあ、さっぱりしてる。
――まあ、は、悪いこっちゃねえわ。
アグーシャはそのために自分が殴られた籐製の籠を、今は毎日托児所で見た。そこに寝かされるのは八本指のアリョーシャの末っ子だ。グレゴリーがいないことにアグーシャはしだいになれた。
托児所の庭でアグーシャは馬鈴薯の皮むきをやっていた。子供を片手に抱きあげ、むつきを代えていたマルーシャが、むこうを見ながら、
――あら、見なアグーシャ! 今日、ピムキン、托児所見さ来るつもりだぞ。
といった。
――どれね?
――ホラ! 見ろ。ルバーシカ洗って干してんべ。
白樺が六七本かたまって生えている。わきに小流れがあって鵞鳥が浮いていた。ピムキンが黄色い半裸で、そこの草に坐っている。白樺の枝に、何色といっていいかわからないピムキンのルバーシカが古旗みたいにひっかけてあった。
ブローホフ村の医者が来る日だった。マルーシャは、しばらく遠くに見えるピムキンの裸の背中を眺めていたが、
――ぷう! 気違い!
そのまんま歌をうたいだし、せっせと子供を洗いにかかった。
暑い日になった。アグーシャははだしで裏のりんごの樹かげへ坐り、子供らの下着のつづくり仕事を膝へひろげた。
医者が来るんで、籠の寝台は庭から建物の中へ入れられた。匂うような暑い夏の午後を蜜蜂がプウーン、プウーンうなってる。
アグーシャは、そうぞうしい人声にハッとして眼をひらき、あたりを見まわした。裏庭には彼女ひとりだ。騒動は托児所の表だ。
――えーふー、あにおっぱじめた……。
建物の横をまわって入口へ出ると、びっくりして突立ってるニーナがいる。白ズボンをはいたブローホフ村の医者が頬ぺた押えて、地面につばき吐いている。そしてピムキンが五六人の男にギッシリとりまかれている。
――何した?
――ピムキンが先生殴っただ!
――なぐった?――気べちがったか!
――早くイグナート・イグナートウィッチ呼ばってこい!
――畜生! 先生なぐるちゅう法あっか! 悪魔につかれてけつかる。見ろ! 村ぼいこくってくれっから※[#感嘆符二つ、1−8−75]
ピムキンは、黄色いみっともない顔をふるわせ、二つの眼だけ空にある太陽のかけらはめたようにギラギラさせている。
足を引ずるような小走りでイグナート・イグナートウィッチが駆けて来た。――集団農場全体が駆けつけて来た。或るものはサスかついでる。或るものは鎌を手からはなさず来た。
――畜生! 何ちゅうことしでかした!
――俺、だからいったでねえかよ。ピムキンみてな奴、集団農場さ入れるでなえて!
――子供《レビャータ》たち! しずかにしろ!
ニキータがどなった。
――ピムキン、お前先生なぐったって、ほんとか?
イグナート・イグナートウィッチが、ピムキンの肩ひっ掴んで訊いた。
――殴ったとも! 見な!
――見ろ! 先生血いまじったつば吐えてる。
――ピムキン! 知ってるか。われわれん村じゃ医者の数あごく少ねんだ。ブローホフ村からやっと来て貰ってる、お前その医者殴って、あとどうしるんだ? もう来ちゃくれめえ。ビリンスキー集団農場と托児所からお前、医者奪った。元パルチザンのすっことか?
――イグナート・イグナートウィッチ! 嗅《けえ》でくれ! 嗅でくれ! 医者の口を嗅でくれ!
ピムキンはギラギラした眼と手でイグナトをせき立てた。
――どして。
――嗅でくれ!
麻ルバーシカを緑色の絹紐でしめた、丸まっちい体つきの医者は、イグナートに向って自分から、
――どうもはや、村の連中にゃかなわん。
そういって手を振りながら、また地面につばをはいた。そのはずみに医者はひょろついた。イグナートは、じっとその様子を見つめた。
――さて……
髯をしごき、今は密集している集団農場一同に向っていった。
――同志《タワーリシチ》、集団農場員《コルホーズニキ》! どうすべえ? 医者は酔って托児所さやって来た。
――聞いてくろ! 俺《おら》、どげえな思いしてこの托児所こせえた? 一年かかって、てんでが家から、枕あ、敷布だしあって、やっとこせえたんだ。
ピムキンは、
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