…おっかね。
それから子供らは、プラカートを握り、眼に力いれて地平線を見つめはじめた。白い雲があるだけである。
朝日は彼らの影をジッと足もとにおとしてる。
――来たっ!
ころがるように道ばたの高みを駈けおりながらペーチャが叫んだ。
――来たぞっ!
ウラー! アアアアア!
見ろ!
見ろ※[#感嘆符二つ、1−8−75]
春の白い軟かいかたまり雲が光ってるところに黒いでかいトラクターが現われた。隣村から送って来た者が多勢まわりにくっついて、トラクターがやって来た!
一台!
二台※[#感嘆符二つ、1−8−75]
ピオニェールはマラソンだ。赤いプラカートはもみにもめる。
地響を立て、鋼鉄の胴体を震動させつつトラクターは真直ぐピオニェールの方へ、ビリンスキー村の方へやって来る。まわりは、果ない耕地、耕地だ。
――村へ入って、村ソヴェトの前まで来たとき、二台のトラクターの周囲は隣村のもの、うちの村のもの、人だらけで、高いところに一人技師がハンドル握っているのだけが見えた。
集団農場については積極的によろこんでいない者でも、家に坐っている我慢は出来なかった。技師が真面目な顔つきで高いところから下りて、イグナート・イグナートウィッチと丁寧に、心をこめて握手したとき、若いものは思わずウラーと叫んだ。婆さんたちは、せかせか胸の前で十字をきって涙を浮かべた。
樅の葉っぱで飾った村ソヴェトの前でイグナート・イグナートウィッチは二人の技師その他と立って演説した。
――さて――機械が来た。機械と一緒にわれわれソヴェト農民の新しい事業がはじまるんだ。機械は、わかってるだべ、お前のもんでも、俺がもんでもねえ。われわれ集団農場全員《コルホーズニキ》のもんだ。――つまり……ソヴェト農民全体のもんなんだ!
ピムキンは、気違い犬みたいに今日は特別落付きない。イグナート・イグナートウィッチの足許へひっついて群集に向って立っている。彼は、イグナートの演説のきれめきれめに頭をふりながらいった。
――百姓《ムジーク》も会得する時機だ。ハア。
青年共産主義同盟員《コムソモーレツ》ニキータも、髪の毛の生え際まで赧くなって野天で、トラクターのわきで演説した。
――子供《レビャータ》たち! わかるだろ。機械は新しい生産の武器だ。われわれプロレタリアートの階級の武器だ! 武器をお前ら
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