篇は、この作者が数篇の小説に於て所謂買われて来た面を破綻的に現していることで注目に価する。「希望館」とこの「父たち母たち」とでは作柄が違って見えるが、根本的な傾向として抽象的に人間性を取り上げている点では同じ性質の二作なのである。
プロレタリア文学が辿って来た発展の歴史を省ると、この人間性の抽象的な尊重という傾向は、ソヴェトの文学運動の過程にもかつてあったことである。一九二九年から三一年頃までの間に、ソヴェトの文学では過去の単純に英雄化された人間の描写を発展させるべき方向として、人間を描けということが言われた。善玉悪玉でない生きた人間を描けということであったが、ソヴェトに於てもこのことは一部の作家に曲解された。リベディンスキーがこの課題に答えようとして書いた「英雄の誕生」は、この提言がどんな風に或る作家の個性的なものによって誤解されるかということが示された作品であった。リベディンスキーは、「英雄の誕生」の中で経験を積んだ政治家の日常活動と対立した性慾の問題を切り離して扱い、その誤った人間性の理解について多くの批判を受けた。
ソヴェトではその後、社会主義の建設が進むにつれて、大衆の経
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