言いあわせをして或るシーズンはランジェー公夫人だのラスティニャクが社交界に現れたということにふれ、サント・ブウヴは書き添えている。「こういう距離のあるところでは、バルザックの作品を近くで見た、気難しい人の心を完全に捕えかねる空想的な部分というものが目に映らなくてそれが却って人の心を惹きつける魅力を増すということになるのである」と。サント・ブウヴが、「人間喜劇」はロマンチシズムの本家のような役割をもってイギリスでも、ゲーテのドイツでも鑑賞されたことにふれず、その頃のフランス文化の到達点と比較すれば殆ど未だ近代啓蒙時代にあったロシアやハンガリーなどという土地でだけバルザックが流行《はや》っているように書いているところに、今日の我々の洞察は、文字には語られずに発動している文学的同時代人のバルザックに対する感情の機微を見出すのである。
「ユーゴオが恰も文芸復興時代《ルネッサンス》の大画家のように」堂々たるノォトルダムデシャン街の家で、美しい妻と彼を崇拝する門人達にとりかこまれて創作している時、「バルザックは唯一人その書斎で筆を走らせていた。」当時の名声高い作家バルザックの日常にふれてブランデス
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