らかホラ吹きな父ベルナールと、生粋のパリッ子で実際的な活動家で情がふかいと同時に小言も多い若い母との間に、三人の子があったが、その総領として「よく太った、下膨れの顔の、冬になると手足にいっぱい霜やけの出来る」オノレが生れたのである。
カトリック教のひどくきびしい寄宿学校に八つのときから六年間も入れられ、あまり器用に立ちまわれないこの生徒は、終りに衰弱で半分死にかけるような苦労をした。そこで家に引きとられ、通学で十七の年法律学校を卒業した。バルザックが、文筆生活をはじめたのはそれから三年後、二十歳のときであるが、それも決してすらりと行ったわけではなく、父親ベルナールは息子を法律家に仕立てて立身させようと考えた。そしていよいよ事務所まで買いかけたことがわかった時、大柄なずんぐりな二十の息子であるバルザックは父親と大論判をはじめた。バルザックはどうしても文学をやるのだと云って「大声に泣き叫ぶ」騒動を演じた。
母のとりなし、特に妹のロオルの支持で、バルザックの作家志望は遂にきき届けられた。然し、それには一つ妙な、父親の地方人らしい、実利的な条件がついた。二年間だけ好きにさせてやるから、その
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