ニッポン三週間
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一廉《ひとかど》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)革命[#「革命」に×傍点]作家連盟にゆずった。
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 新聞包をかかえて歩いてる。
 中は、衣紋竹二本・昭和糊・キリ・ローソク・マッチ・並にラッキョーの瓶づめ一本。――世帯の持ちはじめ屡々抱えて歩かれる種類の新聞包だ。朝で、帝大構内の歴史的大銀杏の並木は晴れた秋空の下に金色だ。
 金色の葉は砂利の上にも散ってる。吹く風の肌ざわり。ラッキョーの瓶。どっちも一寸しめっぽくて、ひやっこくて――帝大のブルジョア大学らしいネオ・ゴチックの建物を眺めながら歩いていると、実に三年ぶりの日本の秋だ。
 空を飛んで来たブルース夫人は日本及朝日新聞社へ着陸した。彼女は飛行帽をぬぎながら愛嬌よく云った。
 ――美しい日本! 機上から国全体が公園のような日本を見下したときはほんとに愉快でした。
 全く、日本の秋に紅葉した山々は、細かく細かく小庭のように区切った田の上で、細かい木製道具をつかってすべてを二本の手の働きだけで稲の収穫をしつつあ
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