だが、俺たちの命がつなげる方法を講じろと迫った。会社ではあわてて、一策を案じ出した。それは、失業させられた労働者中の希望者は県当局がいくらかと会社がいくらかと旅費を補助して「満州国」へ移住させるというのだ。
会社の事務員は「満州国」へ行きさえすれば仕事は山ほどあり、物価はやすいし仕合わせずくめの話をする。ブル新聞では「新天地満州国」とか、日本の「大衆の幸福の鍵満州国」という風な太鼓をたたいているから、失業させられ、食う道を求めて焦っている労働者たちは到頭心を動かされた。僅かの旅費の補助を土台とし遠い満州国へ移住するのだからと家財道具をも売り払って、女房子供を引きつれ数百人が一団となって幸福を求め旅立って行った。
長春は新京と名を改め、今は「満州国」の首府である。着いて見て、北九州の労働者達は拳を握って口惜しがった。会社と県当局とに、一杯くわされたことがわかった。「満州国」の役人は職業の世話をしてくれないばかりか、テンから邪魔者扱いである。「こっちにはお前らよりもっとやすい賃銀で働く中国の労働者がいくらでもいるから用はない」そう云って放り出された、とり合ってくれぬ。
「満州国」がわれ
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