撃デー」だ。
 ソヴェト同盟は五ヵ年計画で、役に立つものなら古桶の箍《たが》でもこねかえして機械にしてしまうという意気込みなんだ。
 信吉も一生懸命ホジっちゃ地べたへ古鋲や変な古金物の端をはじき出してるところへ、ブラリと煙草をまきながらグルズスキーがやって来た。
「……今日は鍛冶部へ牛乳が半コップだけしか渡んなかった……知ってるか?」
「それがどうしたよ」
 信吉は、額の汗を払いながら太い声出した。
「……見ろ。初めてだぜこの工場で。……農民は、だんだん労働者に食わせねえようになって来たんだ。奴等、怒ってるんだ。……二〇年の饑饉だってそこから起ったんだ」
 こいつ何故、俺をつらまえちゃこういうことを云うんだ? 信吉の腹ん中には、さっき自分の眼で見た鍛冶部の連中の態度がうちこまれてる。彼等はこういう風には、そのことを扱ってない。――「おいトッちゃん」
 信吉は立ち上ってグルズスキーの肩を両手で持ちクルリとあっちを向けた。そして指さした。
「あの人にそういうことァ云ってくれ!」
「……どの人よ」
「あの人ヨ」
 信吉はもうしゃがんで掘じくりながら笑ってる。
「……畜生!」
 グルズスキーは
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