ら一人前の大人だよ。信吉は威勢よく、
「これだ!」
と、ポケットからまだ新しい手帖を出して見せた。
「それじゃ駄目だ」
どうして※[#疑問符感嘆符、1−8−77] すると、売子に砂糖をはからしていた若い女が愛嬌いい眼付で、笑いながら、
「米は、子供の手帖でだけ分けてくれるんだよ。それでなけりゃ、こういう手帖でなけりゃ駄目なのさ」
そう云って自分の赤い色の手帖を見せてくれた。
勢が挫けた信吉はおとなしく、
「それ、何の手帖だね」
ときいた。
「消費組合員の手帖さ……」
そして、いかにも気軽い調子でその女は信吉に云った。
「お前さんもお買いなね……どうして買わないの? 働いてるんだろ? じゃ何でもありゃしない。――あの窓口へ行ってそうお云い……ホラ、あの窓……」
年かさの女にすすめられ、信吉は断りきれなくなって、空箱をつみ上げた横の窓口へ行った。振向いて見ると、世話好きな女はちゃんとまだこっちを見ていて、
「そこ、そこ!」
指さして、首をふってる。
その様子を見て耳飾りを下げた若い窓口の娘が声をかけた。
「お前さん、なに用?」
モスクワじゃ役所でも店でも、どっちを向いても女
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