ズラかった信吉
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)海老茶色《えびちゃいろ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)人工|孵卵器《ふらんき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#ローマ数字「I」、1−13−21]
−−
(※[#ローマ数字「I」、1−13−21])[#「(I)」は縦中横]
一
東海道本線を三等寝台車が走るようになった。だがあれは、三段にもなっていて、狭く、窮屈で養鶏所の人工|孵卵器《ふらんき》みたいだ。
シベリア鉄道の三等は二段だ。広軌だから、通路をへだてたもう一方にも窓に沿って一人分の座席があって、全体たっぷりしてる。
信吉は、そういう三等列車の上の段で腹んばいになり、腕に顎をのっけて下の方を眺めていた。下では三人の労働者風なロシア人が、カルタをやっているところだ。肩のところにひどいカギ裂きの出来た海老茶色《えびちゃいろ》のルバーシカを着たの。鳥打帽をぞんざいに頭の後ろに引っかけたの。剛
次へ
全116ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング